「造花は味気ない!」
すっかり日本の夏は「猛暑」を通り越して「酷暑」と呼ばれるレベルが当たり前になってきましたね。外を少し歩くだけで汗が吹き出すような季節、お花屋さんにとっても実は一年で一番ハラハラする季節だったりします。
そんな真夏のご先祖供養といえば「お墓参り」ですが、この時期になるとお客様からよくこんな切実なご相談をいただきます。
「夏場にお墓にお花を供えても、翌日にはドロドロに腐っちゃうのよね……。もったいないから、造花じゃダメかしら?」
うーん、なるほど。お気持ちは痛いほど分かります。今の日本の夏は問答無用で容赦ない暑さ(文字通り墓石の照り返しは地獄です)ですから、生花が1日しか持たないなんて日常茶飯事です。
でもね、お花屋さんの本音をちょっとだけ毒を交えて言わせていただくと……「いやいや、そこはケチるところじゃないでしょ!」と思ってしまうわけです。
今回は、真夏のお墓参りにおける「生花 vs 造花」のモヤモヤ論争について、花屋の目線から少し踏み込んでお話ししてみたいと思います。
猛暑日に1日で枯れる生花をお供えするのは「もったいない」?
まずは、多くの方が抱く「もったいない精神」について考えてみましょう。
確かに、最高気温が35度を超えるような猛暑日。お墓の厳しい環境下では、水を吸い上げる前に切り口が傷み、文字通り「1日」で一気に枯れてしまうことも珍しくありません。せっかく買ったお花が、翌日には見る影もなくなっているのを見れば、「お金をドブに捨てたようなもの」と感じてしまう気持ちも分からないわけでもありません。
でも、ちょっと待ってください。お墓参りでお花を供える行為って、そもそも「長持ちさせること」が目的なのでしょうか?
お墓にお供えするお花(仏花)は、綺麗に咲いている姿をご先祖様に見てもらい、同時に「私たちもこれだけお花を大切に思う豊かな心で生きていますよ」という報告の場でもあると私は考えています。
1日で枯れてしまうとしても、その「1日のために、命ある一番美しい姿を捧げる」ということ自体に、お墓参りの本質的な意味があるのではないでしょうか。
ぶっちゃけ、お墓の仏花っていくらする?
ここで少し、現実的なお金のお話をしてみましょう。 「生花は高いから……」と躊躇される方もいますが、実際にお花屋さんで売られているお墓用の仏花(1束)の相場をご存知ですか?
一般的には、1束あたり500円から1,000円程度です。 お墓の左右に供えるために2束買ったとしても、1,000円〜2,000円。
年中無休で毎日お墓参りに行くというなら話は別ですが、多くの人がお墓に足を運ぶのは、お盆、お彼岸、年末年始、あるいは命日など、年に数回程度ですよね。
年に数回のイベントで、ご先祖様のために使う1,000円や2,000円。 これを「高い」「もったいない」と感じてしまうのは、少し寂しい気がしませんか?
100均でも買える造花はコスパ最強、でも……溢れ出る「味気なさ」
一方で、最近の造花の進化には目を見張るものがあります。 100円ショップに行けば、それなりに見栄えのする仏花風の造花が100円程度で手に入ります。ホームセンターに行けば、もう少し精巧に作られたリアルなシルクフラワーが数千円で売られていますね。
造花の最大のメリットは、何と言っても以下の3点でしょう。
- 絶対に枯れない(腐らない)
- 水替えの手間がゼロ
- 圧倒的にコストパフォーマンスが良い
夏場にお墓の管理がなかなかできない遠方の方にとっては、お墓が荒れて見えるのを防ぐための「苦肉の策」として重宝されているのも事実です。
しかし、お墓の前に立ったとき、プラスチックや布で作られたお花が刺さっている光景を想像してみてください。
……どうでしょうか。どこか、「味気なさ」を感じませんか?
造花はどれだけ精巧に作られていても、工業製品です。 季節の移り変わりを伝える香りはしませんし、風に揺れる儚さもありません。時間が経てば紫外線で色褪せ、ホコリをかぶって、むしろ生花が枯れるよりも悲惨な「偽物感」を漂わせることすらあります。
ご先祖様を想う場所に、手入れの手間を省くためだけの「枯れない偽物」を置いて帰る。その光景に、私はどうしても温かみを感じることができないのです。
【花屋の本音】500円の花を「節約」という名目でケチるなよ、と思ってしまう理由
ここから少しだけ、毒を吐かせていただきますね(笑)
現代はお財布に厳しい時代ですし、生活のあらゆる場面で「節約」を意識するのは素晴らしいことです。スーパーの10円安い食材を選んだり、電気代を浮かせたりする努力は素晴らしいと思います。
でも、お墓にお供えするわずか500円〜1,000円程度のお花を、「節約」という名目でケチるのは、ちょっと方向性が違うんじゃないの? と思うのです。
厳しい言い方かもしれませんが、それは節約ではなく、単なる「めんどくさい」の言い訳や、ご先祖様への「出し惜しみ」になってしまっていませんか?
友人のお祝いや、恋人へのプレゼントなら、数千円〜1万円の出費を惜しまない人でも、なぜかお墓のお花になると急にシビアになる方がいます。 ご先祖様が繋いでくれた命があってこその「今の自分」です。その感謝を伝える場でのわずかな出費をケチってしまうのは、心の余裕まで削ぎ落としているようで、店内のカウンター越しから見ていて少し悲しくなることがあります。
立場変われば考え方も変わるけれど、個人的には「造花」の選択肢はない
もちろん、世の中には様々な事情を抱えた方がいらっしゃいます。
- 足腰が悪くて、お墓の頻繁な水替えや掃除に行けない高齢の方
- お墓が飛行機や新幹線の距離にあり、年に1回しか行けない方
- 霊園の規則で、夏の生花持ち込みが一部制限されているケース
そういった「どうしても生花を維持できない切実な理由」がある立場の方々が、お墓を寂しくさせないために造花を選ぶお気持ちはよく分かります。立場が変われば、正解も変わるものです。造花を選ぶことが一概に「悪」だとは言えません。
しかし、もしあなたが「お墓まで歩いていける距離に住んでいる」「健康な体がある」「年に数回のお墓参りである」という状態なのであれば、個人的には、お墓に造花をお供えするという選択肢は、やっぱりありません。
大きい霊園だと生花の持ち込み禁止というところが結構あるんだよね。要は霊園内のお花を買ってお供えしなさいということねw
それは花屋の商売的な視点だけではなく、一人の人間として、ご先祖様に対する礼儀やマナー、そして自分自身の心のあり方として、どうしても生花を選びたいと思ってしまうからです。
まとめ:たとえ1日で枯れるとしても、お墓には「生花」がいい!
お花は、生きているからこそ価値があります。 蕾から花が開き、一番美しい瞬間を迎え、そして静かに枯れていく。その一連のサイクルは、人間の「諸行無常」を教えてくれるものかもしれません。
たとえ酷暑のせいで、あなたが帰った翌日にはお花が萎れてしまうかもしれない。 それでも、お墓の前で包み紙を破り、新鮮な水を注ぎ、青々とした茎をパチンと切って、瑞々しい生花をお供えする。その瞬間の「お供えする側の心の充足感」こそが、何よりもご先祖様への供養になるのではないでしょうか。
「お花が綺麗ね」とご先祖様と心の中で会話するひとときは、100円の造花では絶対に味わえない、プライスレスな価値があります。
今年の夏のお墓参り。 「どうせすぐ枯れちゃうしな……」と諦めて造花を手にする前に、ぜひお近くのお花屋さんに立ち寄ってみてください。夏場でも比較的長持ちする「キク」のお花や、少しでも長持ちさせるための水揚げのコツなど、お花屋さんなら喜んでアドバイスしてくれますよ。
1日だけの輝きだとしても、命ある本物のお花を、ご先祖様もきっとその瑞々しい香りと輝きを喜んで待ってくれているはずです。
